講演:東京外国語大学AA研創立50周年記念シンポ

『文法とコミュニケーションの怪しい体系性―ありのままの言語研究の挑戦』

東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所
創立50周年記念シンポ
『「言語」「文化」「歴史」の幻想を超えて―現場の渾沌から捉え直す世界のしくみとかたち―』
@一橋記念講堂 2014.10.24

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【要旨】

人間の社会的な営みと結びついている現象は、マクロレベルで見えるシステム性・一般的規則性とミクロレベルで見える多様性・複雑性の両面を併せ持っているおもしろみがある。しかし、この二つの側面は、しばしば切り分けられ、前者のシステム性こそが理論的研究の中心的対象であると考えられる。言語研究もその例外ではない。今の言語研究では、マクロレベルで見える一元性(一般規則、普遍性)こそが言語現象とそこに見られる体系性の本質だと考えられてきた。

ところが、人々が言語を使う現場に目を向けてみると、そこには言葉遣いのバラツキやユレ、文脈依存の規則性、複数のパターン間の不整合、形式や用法の不断の変化など、一元的体系という理論的理想とは相容れない「不都合な現実」が多く観察される。これまで、そうした事実はあくまで言語運用上の表面的な問題であって、言語システムの本質に関わる問題ではないと切り捨てられがちであった。

都合の悪い現実から切り離すことでシステムの内的整合性を保とうというのは効率的な解決法にも見えるが、それでは、言語使用の現場に見られる多くの事実を言語研究の外に押しやり、結果として言語研究が人間の社会活動を理解する上で果たしうる役割を狭めることになる。さらに、ミクロレベルでの多様性・雑然性とマクロレベルでのシステム性を併せ持つ現象は、経済などの他の社会現象のみならず自然界でも多く観察されている。とすれば、システム性と多様性という一見矛盾する性質が共に本質を成すものとして言語システムを捉えることは理にかなっているように思われる。

現在東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所で進められている基幹研究の一つ「言語ダイナミクス科学」はまさにそうした認識が出発点となっている。人々が日常生活の中で意味を伝え合う。その生きた活動の中での言語の使われ方、言語表現の組み立て方を見ると、言語体系を作っている規則性やパターンは明らかに多様性と変化を内包した動的なものであることがわかる。その動的な体系性をつきとめる営みは、現代の言語研究で広く前提とされる、言語を静的な整合性・規則性の体系として捉える「共時言語学」の理論的・概念的枠組みの多くを組み替えることにまで挑戦を広げるものである。

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