Evans, Nicholas and Stephen C Levinson. 2009. “The myth of language universals: Language diversity and its importance for cognitive science.” Behav Brain Sci 32 (5): 429-48; discussion 448-494
【ポイント】
- 人間の言語は従来の言語研究、特に形式理論的研究のなかで想定されてきたよりも遙かに構造的に多様
- 言語の構造的多様性は決して表層的なものではなく、言語の本質の一部
- 構造的多様性こそが人間言語が他の動物のコミュニケーションシステムと大きく異なる特徴
- 構造的多様性を踏まえた言語研究が取り組むべき問題は (1) 同じ認知的基盤の上に実現されている言語が文化社会的活動の中でどのようにしてこれほど多様な形に進化したのか、(2) どうやってこれほど多様な言語をどれも苦労することなく習得し使えるのか、ということ
- この構造的多様性を踏まえた言語研究は、従来の形式理論研究ではむずかしく、生物学的制約と文化・歴史的継承プロセスの間の相互作用の中で起こる共進化(coevolution)として言語を捉え直す新しい研究パラダイムに置くことが必要
【コメント】
広く研究されてきたヨーロッパやアジアの大言語などとはかなり異なる小言語をずっと研究してきて、言語の構造がいかに大きく異なりうるかを強く意識しているので、言語の構造的多様性を真っ正面から言語の本質として位置づけたことには大いに共感できる。
同じ生物学的基盤を共有する人類の中でどうしてこれほどまでに多様な言語が発達してきたのか、その問題に対する研究アプローチとして共進化に基づくモデルを提唱しているのにも大いに賛同できる。
この論文に対してはさまざまな方面から賛否両論多くの意見が寄せられ、さらにそれにEvansとLevinsonが回答しており、非常に興味深い討論が見られる。
[2013-08-14]