大学院進学者のキャリア問題について考え始めます

今日の大学院ゼミでは、言語学の話を少し置いておいて、研究者のキャリアについての問題について話し合いました。

終身雇用、正規雇用が当たり前だった社会が崩れて若者のキャリアパスが不透明になってきたことが大きな社会問題になっていますが、研究者のキャリアにも今大きな混乱が起こっています。研究者というキャリアは専門性が高いだけに元々会社への就職とはかなり異なり、不確定な部分も多く運によるところも大きかったのですが、それでも、かつては選り好みをしなければたいていどこかの大学に常勤職を得ることができました。

ところが、最近は博士課程を修了しても専任の研究職ポストに就職できず、非常勤講師や短期雇用のポストドクターなどのポストを渡り歩き続ける—こうした苦境に置かれた若手研究者は少なくありません。「高学歴ワーキングプア」などと形容されることさえあるその状況は、異常なほど多くの若手研究者を巻き込み、社会問題化しています。(その実情はこんな創作童話によく語られています:「はくしが100人いるむら」

たいていの社会問題がそうであるように、「高学歴ワーキングプア」問題もさまざまな要因が複合的に関わって引き起こされていますが、一番大きな直接的なきっかけを作ったのが、1990年代から行われた国を挙げての大学院重点化政策だと言われています。

社会問題が複雑化し変化が激しい現代においては、社会のあらゆる領域において新しい知識・情報・技術の重要性が増してきています。そうした中で、大学院における高度な能力を持った人材の育成を強化することが国家レベルでの優先課題であるとされてきました。1990年代のいわゆる「大学院重点化政策」に始まる一連の施策の結果、大学院生数は約3倍に増え、毎年1万5千人をこえる人が博士課程を修了するようになりました。これらの数字だけを見ると、大学院強化の政策は功を奏したかに見えますが、増えた大学院修了者をどうやって社会に役立てていくのかという明確なビジョンなく改革が進められたため、増えた大学院修了者は行き場を失ってしまいました。

大学院修了者の大半は大学や公的研究機関での研究職ポストに就職することを希望していますが、昨今の経営効率化への強い圧力の中で大学の常勤ポストは増えるどころか減少しており、毎年多く生み出される博士号取得者の多くは就職先を探すのに大変苦労しています。

文科省ももちろんこの問題を重大視し、定職に就けていない博士号取得者に対しさまざまな支援策を打ち出していますが、この問題には大学の経営と教育体制の問題なども絡んでいて、一筋縄では解決できず、いまだ効果を上げるに至ってはいません。

大学院進学者のキャリア問題は、程度の差こそあれ、学問分野をこえて見られる深刻な社会問題で、政府や大学による積極的な取り組みが必要であることは言うまでもありません。しかし、一方で、そうした対策を待っていたり、取り組みが進まないことに抗議するだけでは救われません。

そこで、大学院のゼミの中で、そうした状況の渦中にいる若手研究者が主体となって変えていけることがないか、自分たちが変わることで新しいキャリアパスを創り出すことができないか、そんなことを真剣に話し合っていくことにしました。

この議論の輪に入って一緒に考えたい方、歓迎しますので、連絡をください。

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