人間の問題解決活動とその能力

言葉によるコミュニケーションも大きな意味では「問題解決活動」の一つと言える。相手にこちらの意図を伝え、理解や行動の連携を取るという課題に対して言葉をどのように使って対処するか。そこで、今日はこの問題解決活動とそれを支える知的能力について少し考えて見ようと思う。

人間の知的能力の特質を明らかにしようとするとき、我々の問題解決活動のあり方は大きな示唆を与えてくれる。

我々が問題解決に取り組むときに使う手段は大きく分けて2種類ある:

(1) 論理的解決

  • パズル解きの時の思考のように、さまざまな要素を組合せながら解決にたどり着く方策を探す
  • 要素の組合せ方の一般規則を使いながら複雑な解決法を探す
  • 新しい状況にも対応できる
  • 思考力を多く使いコストが高い>遅い

(2) 定石・公式の活用

  • すでに決まった解決法を単に当てはめる
  • 具体的な解決の論理は意識されない(解決の具体的手順・論理を知らなくても定石・公式を使うことができる)
  • 決まった状況にしか対応できない
  • コストが低く効率的>早い

問題解決能力の性質を考えるとき、新しい状況にも対応できる創造的能力の方に主たる関心を持つ。それは、我々の思考能力の潜在力を見せてくれるからである。

ここで注意すべきなのは、論理的解決プロセスの研究が明らかにしてくれるのは我々の問題解決活動の全体像ではないという点である。論理的解決プロセスは、以前に出会ったことのない状況・問題に対応するときに使われるものであるから、それを研究した結果明らかになるのは、あくまで、馴染みのない問題を解決しようとするときの思考活動についてであって、見慣れた問題を解決しようとするときの思考活動については何もわからない。しかし、こうした点は意外と無視されていて、創造的な問題解決を支える論理思考だけを基盤に我々の問題解決活動を性格づけて理解しようとすることが多い。

定石の活用は、言ってみれば丸暗記した方法を記憶から引っ張り出しているだけなので、確かにそこからは我々の思考能力の本当の潜在力の全貌はわからない。だが、日常の問題解決活動の中で我々が使っているのは実は定石・公式の方が圧倒的に多い。もちろん人にもよるであろうが、朝起きてから夜寝るまでの間に一つ一つのステップについて考え、それを論理的に組み合わせて何かをするという活動はかなり少ない。そうだとすると、我々の問題解決活動を理解するには、論理思考によるものばかりに注目するのは間違っていると言える。

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