投稿者「Toshi Nakayama」のアーカイブ

人間の問題解決活動とその能力

言葉によるコミュニケーションも大きな意味では「問題解決活動」の一つと言える。相手にこちらの意図を伝え、理解や行動の連携を取るという課題に対して言葉をどのように使って対処するか。そこで、今日はこの問題解決活動とそれを支える知的能力について少し考えて見ようと思う。

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[読] Arunachalam (2013), Experimental methods for linguists

Arunachalam, Sudha. 2013. Experimental methods for linguists. Language and Linguistics Compass 7 (4): 221-232.

【概要】

言語に関する実験的研究とはどんなものなのかを簡単に概観したもの。

“The goal is to provide readers with some tools for understanding and evaluating the rapidly growing literature using experimental methods, as well as for beginning to design experiments in their own research.”

 

【ひとこと】

実験的言語研究について知らないけれどもどのような事が研究されているのかを簡単に見るにはよさそう。長い論文でもないので、ざっと読んでみても損はない。

[院ゼミで議論: 2013-07-03]

 

[発表]「自然談話が切り拓く言語研究」@日本語学会のワークショップ

2013年6月1日〜2日、大阪大学での日本語学会のワークショップ企画で発表してきました。これは国立国語研究所の木部暢子先生が「テキストを使った方言研究から見えてくること-危機方言の調査と記述」という題で取りまとめてくださったものです。

私は、「自然談話が切り拓く言語研究」というタイトルで、自然談話資料を基盤とすることで文法記述・文法研究がどのように拡大発展させられるのかについて話しました。その概要は以下の通りです:

従来の文法記述・研究においても、もちろん談話データが使われてはきましたが、その必要性はあくまで語用論的なパターンなど、文を越えた領域の研究に限られると考えられてきました。そうした考え方のもとでは、談話は文法の中核部分(語や文レベルの構成パターン)には関係ないとされてきました。
しかし、談話、より広くは自然な言語使用の実際の中に見られるパターンをみてみると、従来の形態統語理論から想定されているのとは違う規則性や体系性も見えてきます。さらに今ある文法がなぜそのような形をしているのかを理解する重要な手がかりを与えてくれます。また、自然談話の記述は、言語コミュニケーションのあり方の包括的な記録への貢献ともなります。

[読] Wisniewski & Wu 2012: Challenges to a Compositional Understanding of Noun-noun Combinations

Wisniewski, Edward J., and Jing Wu. 2012.
“Emergency!!!! Challenges to a Compositional Understanding of Noun-noun Combinations.”
Oxford Handbook of Compositionality. Ed. Wolfram Hinzen, Edouard Machery, and Markus Werning. Oxford: Oxford University Press.

【要点】

名詞+名詞からなる複合名詞の意味が構成要素の組合せ(composition)からは説明しきれないことを指摘し、複合表現のレベルで見られる付加的意味がどのように生じる(emerge)かを説明する新たなモデルの必要性を主張している。

 

【コメント】

複合的表現では構成要素の意味には含まれない意味が生じるという指摘には同意できる。そうした意味を「emergent features」と呼んでいるが、ここでの「emergent」という用語の使い方は、多数の要素が複雑に相互影響を与え合う中で高次のパターンが生まれてくるemergence現象についての性質とは質的に異なるように思われる。

また、この論文では複合表現のレベルで見られる付加的意味がどのように生じるかを説明するモデルの詳細は十分に提示されていない。

 

[2013-05-29: 院ゼミで議論]

 

猫ポーチ入りクッキー

この週末、横浜にミュージカル『キャッツ』を見に行ったのですが、その時に買ったおみやげにおもしろ言葉を見つけました。

おみやげはこれ。

黒い猫の形のポーチにクッキーが数枚入っているというもので、ちょっとかわいくて手触りが良さそうなポーチに娘たちがほしがったのです。中のクッキーは何の変哲もない丸クッキーかと思いきや、肉球形で、けっこうウケました。

さて、本題のおもしろ言葉ですが、品名を注目…

「猫ポーチ入りクッキー」

これが私にはけっこう気になりました。

意図するところは「ネコ形ポーチに入ったクッキー」なのだと思いますが、それを「猫ポーチ入りクッキー」とまとめてしまうのには何となく違和感があるんですよね。

ではその違和感がどこから来るのか?

ちょっと考えてみました。

まず、「△△入り○○」という構文の使い方。
「△△入り○○」と言った場合、たいてい○○の部分が主要部ですよね。
たとえば、「イカ入りせんべい」。「イカが入ったせんべい」ということで、モノとしては「せんべい」の一種です。
「毒入りコーラ」。こちらはコーラの一種と言ってはヘンですが、それでもモノとしては「コーラ」です。

さて、「猫ポーチ入りクッキー」に戻ります。

「イカ入りせんべい」や「毒入りコーラ」との連想でいくと、これはあくまでモノとしてはクッキーだと言っているように感じられます。そうすると、なんかクッキーの中にネコポーチが混ぜてあるみたいに聞こえませんか(「イカ入りせんべい」と同じように考えると)?

そこら辺の違和感を置いておいたとしても、「猫ポーチ入りクッキー」だとこの製品はあくまでクッキーであるように聞こえてしまいます。

でも、クッキーが欲しくてこれを買う人も非常に少ないだろうし、どう見てもクッキーが製品名というのもヘンな気がしますよね。外からの見た目でもクッキーは見えていないわけだし。

やはりこの製品はクッキーと言うよりポーチだろう、と考えると、「クッキー入り猫ポーチ」にすればいいように思えます。

しかし、悩ましいことに、これも何となくおかしい。

というのも、「△△入り○○」といった場合、「△△」の部分は「イカ入りせんべい」の「イカ」のように、原材料の一部として混ぜてあるものが来ることが多いんです。しかし、この製品の場合、「クッキー」は「ポーチ」の本質に関わっている(ポーチの一部、構成要素をなす)わけではないですよね。そこに違和感の原因があります。

私には違和感がある「猫ポーチ入りクッキー」という製品名ですが、一方で、この製品名を付けた人の苦労も分からないではありません。

「ネコ形ポーチに入ったクッキー」といった説明的な表現だと、より正確かもしれませんが、ちょっと持って回った感じで製品名っぽくないです。そこで「△△入り○○」という定型を使って、名前らしいよりコンパクトな表現にしようとしたのだと思います。しかし、この場合の使い方が「△△入り○○」という表現の典型例と微妙にずれているために違和感を醸し出してしまったということでしょう。

このあたりの語感は、一般的傾向はありますが、詰まるところ個々人がこれまで見聞きした使われ方をもとにした感覚がベースになってできているので、人によって感じ方も違います。ですから、こう感じない人もいるでしょうし、こう感じるのが正しいというわけでもありません。ただ、私の感じた違和感を私なりに分析してみました。

皆さんはどう感じますか?